Japan2025-2017〜私の故郷 神津島と黒曜石〜



私が生まれ育った島・神津島(こうづしま)で産出する鉱物

「黒曜石」
オブシディアン

黒曜石はマグマが急激に冷やされて固まった天然のガラス。
子供の頃はそんな知識は全くなく、
歴史の教科書に出てくる矢じりが黒曜石で作られていて、
それが神津島産だったと知って誇らしく思っていたくらいだった。
思い出といえば、私が小学生か中学生の頃に、
黒曜石をくり抜いて作られた花瓶に生花が飾られた島の展示会を見に行って、
磨くとツルツルピカピカなんだな〜という記憶がほんのり残っているくらい。



黒曜石は伊豆七島の中では神津島にしかなく、
旧石器時代から縄文時代にかけて本土に運ばれ、
矢じりやナイフに加工されて使われたらしい。

そんな時代にどうやって運んだの?と思われるかもしれないけど、
旧石器人や縄文人が海を渡って黒曜石を採りにきていたそうだ。

遠い昔に船か何かを作ってわざわざ採りに来ていた人もすごいと思うけれど、
そもそも太平洋に浮かぶ小さな島に黒曜石があることをどうやって発見したのか、
ナイフや矢じりに加工しようと閃いたのか、最初に発見した人はすごいなぁと思う。

神津島にはいつでも黒曜石があるし、そんなに興味もなかったので、
採りにいくということは考えたこともなかったけど、
宝石や鉱物に興味を持って改めて、
2017年、黒曜石を採りに行こうと島へ帰った。

神津島は東京・竹芝から大型客船で12時間、もしくはジェット船で3時間。
調布飛行場からならセスナで40分。
東京から南に約180kmに浮かぶ人口約1800人、周囲22kmの小さな島。



さて、話は黒曜石に戻り、
日本での鉱物採取はいろいろ許可採りなどが難しいと聞いていたので、
当時、環境省&神津島村役場に確認し、採って良い場所などを確認。
ルールは少し複雑なので、2025年このコラムを書くためにもう一度確認した。

神津島はほとんどのエリアが国立公園に指定されており、
国立公園の鉱物採取に関して簡単に説明すると、
国立公園には(1)特別保護地区、(2)特別地域、(3)普通地域があり、
(1)特別保護地区は、鉱物の採取禁止(許可がない限り)。
(2)特別地域は、小石を拾う程度であればOK。
(3)普通地域は、鉱物の採取OK(ただし土地の形状を変えたり大量に採取する場合は届出などが必要)
またどの場所でも黒曜石を採取する前に土地の所有者の許可は必要とのこと。

島のどの場所が(1)特別保護地区、(2)特別地域、(3)普通地域かは、
環境省のサイトにある地図を見ると確認することができる。




向かったのは、砂糠山の麓にある釜が下。

砂糠山は黒曜石の産地で、
イラストの黒く描かれている部分、
これが黒曜石の地層。




大型船で海から見るとこんな感じ。
間近で見ると大迫力。
しっかり黒い黒曜石の層が見える。

この黒曜石を求め、いざ釜が下へ。


(↑2017年行った当時)(↓2025年現在)


私たちが行った2017年は通行可能だったけど、
2025年現在、釜が下、砂糠山へ向かう道に立入禁止の看板が設置されていた。
村役場に確認したところ、危険なので通行禁止となったそう。



2017年に行ったときも
途中、落石で道が塞がれている場所が…

父ちゃんによると、
2000年に伊豆諸島の三宅島・神津島・新島付近で発生した
最大震度6弱を観測した伊豆諸島北部群発地震で
天上山の斜面が崩れ道が埋もれてしまったらしい。

ちなみに私が小さい頃は、海岸線沿いに護岸道路が伸びていて、
釜が下の手前の荒川まで車で通れる道が続いていた。

黒曜石の層があるエリアまではなかなかの距離。
落石で道が寸断されているのでそれを避けて、岩場を進んでいく。
歩くこと1時間…





ようやく目的の釜が下にたどり着いた。
二つの大きな洞窟が、まるで無人島にでも来たような気にさせる。

先日実家に帰ったときにアルバムを見てみたら、
約40年前に釜が下で撮った写真が出てきた。
上の写真と見比べると釜が下だってわかる。




話を戻して、この海岸で足元を見てみると…



おそらく風化して上の層から落ちてきたであろう鋭い黒曜石が。
裸足で歩いたら足切れそう。
真っ黒なものもあるけどグレーなものも多い。



この大きな塊はここにあったものなのか?
それとも地層から剥がれ落ちたものなのか?




黒く見える部分はみんな黒曜石。
宝石も鉱物も売っているものだけ見ていると
どんなふうに産出しているのかわからないけれど、
現地に来てみるとそれがわかり面白い。



わかったからってなにがあるわけではないけど、
こういうのは大きな石を割ってるのかなと思っていたものが、
そうではなくて風化して落ちたものなんだ、とか。



砂糠山(釜が下)で産出する黒曜石は
全体的にインクルージョンが多く、白い斑点模様がたくさんあり、
石器に使用するには質があまり良くないと言われているけど、
まるで神津島の満天の星空のようで美しい。



多幸湾から釜が下・砂糠山へ歩いて行くのは現在通行禁止なので、
行きたい人は船をチャーターする必要があるけど、
興味がある方は行ってみるのもおもしろいと思う。

土砂崩れがなかったら、今も簡単にアクセスできたであろう釜が下。
もしそうなら、多くの人が黒曜石を採りに行ったりしたのかな。
簡単に行くことができなくなったからこそ、
黒曜石やこの風景は時が止まった昔のまま、現存しているのかもしれない。
それはそれでいいことなのかもしれないなと思い出に浸りつつ、
通行禁止になる前に行くことができてよかった。



神津島の黒曜石は、いくつか産地があり、
写真の真ん中に見える島、
恩馳島(おんばせじま)で採れるものがとても質が良いとされている。
神津の人は恩馳島のことを「おっぱし」と呼んでいる。

ここは国立公園の特別保護地区に指定されているため、
鉱物の採取は禁止されている。
ちなみに海の中は対象外で普通地域となるため採取は可能だけど、
漁場のため採取したい人は漁協の承認を得て採っているとのこと。



実家にあったこの黒曜石は恩馳島付近の海底にあったものらしい。
石に貝や海の生物が付いている。
(白っぽく見えるのは白化した貝殻たち)

釜が下のものと比べると白いインクルージョンが少なく、
外側が海にもまれたのか、まんまるく、すりガラスのようになっている。


2025年現在は、砂糠山や恩馳島に行くのは難しいけれど、
黒曜石があるのはここだけじゃない。

こちらは観光客にあまり知られていない小さな浜、小浜。





海中にはエビや小魚がいっぱいいて気になるけど、
この日は黒曜石探し。

海岸にあるものの多くは丸くなったもの。
透明度が高いものも多い。





小浜をはじめ、神津島の海岸のほとんどは国立公園の特別地域。
土地所有者の承諾があれば、小石を拾う程度であれば問題ないとされ、
当時、神津島村役場に確認し、少しだけ黒曜石を採った。

その中でひとつだけあったこれ!



シラーが出てる!!

こんな黒曜石ははじめて!
こんなタイプもあるとは知らなかった!
探してみると意外と奥が深そうな神津島の黒曜石。




と、ここまでは2017年に黒曜石を採った話を書いてきたけど、
ここからは2025年今回このコラムを書くにあたって、
神津島で一番有名な海岸、前浜海岸に黒曜石を探しに行ってきた話。

前浜海岸は、村の集落から一番近い海岸。
真っ白な砂浜がずっと続いていて、
エメラルドグリーンの透き通る海が本当に美しい。
ちなみにこの白い砂は沖縄地方でよくある珊瑚のカケラでできたものではなく、
石の粒なので、とてもキラキラして綺麗。

夏は海水浴客でにぎわうのはもちろん、
冬はサーフィンを楽しむ人もいる。



黒曜石の採取に関しては、
この前浜海岸も国立公園の特別地域に指定されており、
土地所有者の承諾が必要なことから、
神津島村役場に確認し、小石を拾う程度であればOKと回答をもらった。
(小石を拾う程度というのは、
 環境省の方によると小石サイズの石をいっぱい採るのはダメで、
 あくまで小さな石を数個拾うぐらいな感じだそうです)

さて、この前浜、
神津島に行ったことがある人なら前浜に黒曜石なんてある?
と思う人がほとんどではないだろうか。
昔から神津島で暮らす人でも前浜に黒曜石があることを知らない人もいる。



前浜海岸には岩場はなく、白砂が広がっているので、
一見、黒曜石なんてなさそうだけど、
波打ち際(写真の真ん中)の黒っぽい部分は小石&砂利が溜まったゾーンで、
それに沿って歩きながら見ていくと、ときどき黒曜石が見つかる。




前浜で見つかる黒曜石のほとんどは、
シーグラスようなすりガラスみたいなタイプ。
正面にある恩馳島付近から波にもまれて流れ着いているから???

黒曜石にそっくりな黒い石もあったりするので、
太陽に透かしてみたりして、黒曜石かどうかを確認…



やった!!
レアなボーダー柄。

こんなに綺麗にしましまになってるのは初めてかも。
超大当たり!!


しっかり光を通すと…



わ〜〜〜〜〜〜♪

素敵すぎる!!
ネックレスにでもしよう♪

と、創作意欲まで湧いてくる。


神津島の黒曜石は他にも、
赤っぽいものや、透けなかったり、スッケスケだったり、
それぞれの海岸にいろんな黒曜石があるようだ。

まだ黒曜石をメインで探しには行ったことがない海岸もたくさんあるので、
また調査もかねて探しに行ってみたいな。



最後に、黒曜石といえば、神津島にはこんなお酒がある。
知る人ぞ知る幻のお酒…

『黒耀の雫』神津島酒造

ちなみに、私はアルコールが苦手なのでのんだことはない。
ただ眺めるだけ。
鉱物が好きな人へのお土産にしたりしていた。
たぶん神津島の人でも知らない人がいると思う、
そんなマニアックな銘柄。

今回このコラムを書くにあたって改めて調べてみたら、
今はラベルのデザインが変わってしまったみたい。
私は初代のこのラベルが好きだったのでこの最後の一本は、
マイコレクションに。




元々、神津島の大自然が大好きだったけど、
宝石や鉱物の魅力を知ってからは、
地形とか地層とかそのへんに落ちている石とか、
いろんなことに目が向くようになったり、考えたり、
また全然違う角度で神津島の魅力に気づけるようになった気がする。
改めて神津島にはまだまだ宝物が眠っている!
海のように奥が深すぎる神津島をこれからも知っていきたい。